ファインディング・ジョー「英雄の法則」にも出演されている太極拳のマスターで、タオの神髄を伝えるツォンリャンアル・ファン先生が、株式会社VOICEプロジェクトが主催するセミナーで来日されるということで、インタビューしませんかとの話をいただき、せっかくお話を聞くなら、この貴重な機会に、他の方にもファン先生に会っていただきたく思い、京都で公開インタビューでお話をお聞きすることになりました。

ファン先生は、35年前の1975年以来、2度目の来日ということで、1975年と言えば、昭和50年。相当昔なので、日本の変貌ぶりに驚かれるのではないかと思っていたんだけれど、さすがに太極を知り尽くしたファン先生。浮き世の変化にはあまり関心が無いようで・・・笑 ただただ、日本の滞在を満喫していたようです。

実は、ファン先生、ジョセフ・キャンベル氏ととても親しい友達でした。過去の来日では、ジョセフ・キャンベル氏と来日。一緒に日本を行脚したそうです。

翌日も先生とご一緒したんですが、とにかく歳を感じさせないタフさで、全く疲れることなく、元気いっぱいで、同行する若い僕たちの方が疲労が見えるくらいでした。。。このエネルギーの源こそ、ファン先生の太極にありました。

さて、その太極、タオとは何か?シンプルで深い、生き方の極意を味わってください。
 

Contents

取材後記

人間は天(自然)の方法に従って生きていく

ワダ:
今日は、ファン先生にお話をお聞きする機会を持つことができて、とても楽しみにしていました。本日は、よろしくお願いします。
ファン:
私も日本の皆さんに会えるのを楽しみにしていました。
ワダ:
ありがとうございます!早速、始めたいと思います。
太極拳って、中国で朝公園でやっているような健康体操のようなイメージしかなかったんですが、いろいろと調べていると、とってもすごく奥が深くて、全然健康体操というレベルの話ではなかったんですね。
フィットネスのように教えられている方もいると思うですが、ファン先生が伝えているのは、生きる本質みたいなところから伝えていると感じています。
今日も初めてお会いして、すごくエネルギッシュで驚きました。
まず、太極について、教えていただけますか?
ファン:
はい。
タオという言葉があります。漢字をお見せした方がよろしいですね。(筆で漢字を書く)
これが「道」日本語では『どう』。道というのは、歩く道でもあります。今日は南禅寺と哲学の道も歩かせていただきました。つまり、道を歩いただけなんですが、この道という言葉には「道をどのように歩くか」という意味が含まれています。そして「人生をいかに生きるか」あなた自身が、どのような生き方をしているかということですね。
私は、アメリカでリビングタオ財団を運営していますが、この道(タオ)というものを「日々の生活」という風にご紹介しています。どのようにして道(タオ)を生きるのか、どのように生きたらいいのかということですね。
生活の『生』は生きるという漢字ですね。『活』は左側に水を表す偏(へん)があり、舌に液体があるということです。死んでしまうと舌は乾いてしまうんです。生きている時には、自分のエネルギーがいつも流れていて、舌が濡れているということですね。
日々の生活でどのように生きるかということを表しているのです。この人生をどうやって生きていくのか、そしてこれが哲学、思想になっていくんです。あなた自身の言っていることをどのように実行するのかということ。自分の思想、哲学を使って、どのようによりよい人生を生きていくか、それを私は『リビングタオ』というふうに呼んでいます。
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中国では、この道という言葉をよく使うんです。ですから道というのは、どのようにお話するかということにも繋がります。
中国の漢字では「ツーダオ」。「私は知っている」という意味になります。「ツー」というのは弓を示しているんですね。弓を引くには技術がいります。そうすると、どうやってこの道に入っていくかということがわかりますね。「わかっている」このことを中国語で「ツーダオ」と言います。標的を決めて、自分の道に行くということですね。
これは「自然」という漢字ですね。自然に、または、自発的にという意味です。すべてが自然にあるという意味ですね。自発的に、そしてあなた自身が「あるがままの状態に自然にいる」という意味を示しています。自然の在り方に従いましょう。老子はそのように言っています。
老師が残した道徳教という81編の詩がありますが、その中で有名な詩があります。
老子とは読んで字のごとく「歳をとった子供」という漢字を書きます。これが尊敬されるべき存在のこと、そして聖人のこと、子供のような純粋さをもった、そういう師のことを老子と呼んでいます。ですからこれは、彼の本当の名前ではなくて、敬称として呼ばれていた訳です。歳を重ね叡智も持っている、けれども同時に子供のような純粋さを持っている存在です。そして、その中に81の詩があって、この道(タオ)が何かということを説いています。
最も重要なことは「人間は自然、つまり天の方法に従って生きていく」ということです。そして「天よりも地の方が重要」です。人間は大地に従っていくのです。そして大地は天に従って、天が道に従って、それが何に従っているのかというと自然なんですね。
ですから、タオ・自然・生活。この3つが全部繋がっています。それが私の思想なんです。どのように人生で実践していくかという、私の方法です。
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ワダ:
(タオ)を具体的に人生に生かしていくために、先生の伝える太極やファイブエレメント(五行)をどのように考えて行けばいいでしょうか?
ファン:
大切なことは「体現する」ということなんですね。
この思想を自分のものにするということ、力を与えるということ、そのベストな方法というのは自分で体現することなんですね。人間の身体というのは最高の先生です。
ここに一人の人がいます。もし私が空、スピリットのことを考えたいと思ったら、それは頭で考えるのではなく、エネルギーが下から上がってきて、自分の身体の中を通して、上にいくのを感じるんですね。自分の肉体的な存在、そこから高い意識にいくことなんです。
ですが同時に私は、人間として制限があるということもわかっています。自分の身長はこの高さだけしかありませんから、届くのはここまでです。そうすると、とても望みがないという様に思ってしまうでしょうか。けれども思考、感覚、身体を使って、上に繋がって力を受け取るということができます。身体はそれを理解しています。スピリット、精神で、その高さに到達することができます。そして、身体を器として使って、それを受け容れるんですね。これをタオイストの教えで「ウーウェイ=無為」と呼んでいます。
やってみることはできます。届こう、届こうと努力するだけではなく、自分をオープンにして空が自分のところにやってきてくれるように、招き入れるのです。そうすると空、天の気が自分のところやって来てくれます。
何故なら、自分が受け容れる準備ができているから、この空のパワーを受け入れることができるわけです。
努力するのではなく「ありがとう、今ここで天、空の気を受けとれています」というふうに感じるんですね。
同じように、大地の気もこのようにして。自分の足を通じて、大地の気が上がってくるのを受け入れるんです。そして、自分の身体に根っこを張るようにします。
自分の存在というのは、足で止まっている訳ではありません。このようにエネルギーが繋がっていて、大地からたくさんのエネルギーがやってきます。私の太極拳の身体が、それを知っているんですね。
そして、もう一つの重要なこと、気のパワー。これはスピリチュアルや知的なパワー、地のパワーではなく「人のパワー」です。
私はあなたのエネルギーを、あなたを感じることによって受け取ったんですね。そして皆さんを見て、今日のために、これだけたくさんの方が来てくださいました。
皆さん興味を持ってくださったんですね。これがエネルギーです。それを受け取るためには、私がオープンになって、皆さんと繋がらなければいけません。そうするとあなたの気にもパワーを与えることができるんです。私たちは、私たちという存在以上のものです。そして興味深い方々がたくさんいて、私たちのお話を興味を持って聞いてくださっている、これがタオ、生きる道です。
次に、五行についてお話します。五行というものは英語で“要素”というふうに訳されていますが、本当はこれは正しくはないんです。
英語でも4つの要素があります。風・水・空・気。中国語では5つの自然の中にある動く力というふうに言います。勢いが自然の中で動いているんですね。
中国またはアジアの概念では五行、五つのものが最も重要な自然の中で動いているパワー、力があります。今日はここで漢字を使ってお見せしたいと思います。

『火』『水』
これは火です。炎のように体の中にあるんです。何かに情熱を持ったり燃える感じだったり、点火されるんです。英語では情熱を感じる時に、“火をつけられたようだ”と表現します。でもこの火は、あなたの腹(ハラ)から来るべきなんです。腹からのエネルギーが来たらワクワクして情熱を感じます。しかし、危険なことは、火が多すぎて燃え尽きてしまうことです。ですから、そういう時は水を使ってバランスをとる必要があります。それが太極拳の考え方なんです。ワクワクするだけでなく、それを静かに落ち着かせるということも時に必要です。多すぎてしまうと壊れたり、すぐに疲れます。
これが太極拳の動きです。この五行の中の二つの動き、これは陽と陰です。陽と陰が対極になる、両方の力のバランスです。天と地、そして火と水、両方が必要です。ここが一つの組み合わせですね。

『木』
次に五行の三番目の木です。すべての植物には根っこがあり、上に育ってきます。成長して枝を拡げます。この水平な広がりと垂直な動きがあって、根っこを張っていく。幹、枝もあります。そしてお花が咲きます。大地があり、天もある。そして光がある。あなたの周りの世界があるんですね。これが木のシンボルです。どうやって根を張って、どうやって成長して、どうやって拡大していくか、広がっていくかということを示すものです。
私が太極拳を教える時に、生徒さんが私のところに来て「マスター、私は今日とても忙しくて疲れているので、クラスを受けられることがとっても嬉しいんです」と言うんですね。なぜならここでエネルギーをプラグインすることができるからと。そこで私は言うんです「何であなたは大地にプラグインしないんですか?なぜ空にプラグインしないんですか?どうして周りにいる人のエネルギーを感じることができないんでしょうか?なぜ切花のようにして毎日歩いているんですか?」と。切花を生かしておくためには、必ず花瓶にお水が必要ですよね。でも大地から生えている花は大地の気をもらって生きているんです。でも切られた花というのは花瓶の水が必要です。そして、根っこがないから長くは生きられない。つまり、太極拳の練習とは、どうやって根を張るかということを勉強することなんです。そうでなければ切花のようになって、あっという間に死んでしまいますから。

『金』
次は金(キン)です。金は宝石なんですね。例えば、結晶化するものもすべて金と呼んでいます。
私が付けているこれは、明王朝から伝えられているデザインのベルトのバックルです。ここにはターコイズが入っています。このバックルはとても意味があって、バックルの下が丹田ですね。ここは金のパワーを持つのにとても重要な場所なのですね。
これは大(ダイ)という字ですね、これは人を表しています。大きな人、開かれた人、中国語ではダウと言います。人を大に変えるにはどうしたらいいのでしょうか。
これはただ歩いている人ですが、ここでオープンになって開かれた人、これが大です。あなたのハラ、このパワーをハラで感じていただきたいんですね。お腹の中に火のエネルギーを感じます。これが大です。

『土』
大地というのは、あなた自身が人間として関係性を持たない限り意味のないものになってしまいます。あなたが天とつながって関係性を持たない限り、地というものは土というくらいに思っていたほうがいいです。自分をオープンにしてまず天につながり、そして下に降りてきて大地とつながる。常に関係性が重要なんですね。
この5つのものが分離していません。これはそれぞれ違った命、生きている勢い、力なんです。エネルギーの流れとしてお互いが相互関係を持っています。そしてとてもシンプルな太極拳の動きがあります。火があって、上にあがって、水がバランスをとって、落ち着かせて、花が開いていきます。
そして結晶化された金のエネルギーを自分に取り入れます。あなたの金がここにあります。そして最後に手放さなければなりません。そうするとまた一から始めることできます。大地から空へ、そしてパワーを集めます、そして落ち着きます。とてもシンプルな太極拳の流れです。
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変化というものがただ一つ変わらないもの

ファン:
太極の極ですが、極の字は極端なものを言いますね。
天の反対に地があります。あなたの身体がそれをつないでいるものです。あなたの垂直な身体を使って、高い場所と深い場所をあなたのエネルギーでつないでいくんです。気をあなたの体の中で上下に循環させましょう。そして周りにエネルギーがあります。
その反対は内側のエネルギーですね。このエネルギーはあなたを前に進めたり後退したい時もあります。右側、左側に行きたいエネルギーもあります。あなた自身を上下、内、前、後ろ、左、右をつなぐんですね。そうすることによって自分自身の中心を再発見することになります。自分の頭をクリアにして、喉のチャクラもクリアにして喉を開いてください。
太極拳というのは自然のダンスです。あなたのエネルギーをまずクリアにして、そうすると自然と身体が流れるように動いていきます。そしてあなたの人生について学ぶんですね。エネルギーの流れ方、その全てを準備した時に自分に聞いてみます。「私のお腹の中に火があるかな?」自分の腹に聞いてみましょう。
あなたの人生の中で情熱を感じるものが何かありますか?お腹からパワフルに感じられるようなものがありますか?これがあなたの核のチャクラを開く練習になるんですね。自分自身の火のレベルをチェックする練習にもなります。
朝目覚めた時に、エネルギーを感じないようだったら起きないで布団の中にいた方がいいです。起きた時に「おはようございます」こういうべきなんですね。
「ハッピーで生きています」
「なんと素晴らしい日でしょう」
「雨の日であっても、暗い日であってもあなたは生きているんです」
自分を養う方法、自分が必要なものを自分で満たすという方法を学ぶんですね。水がほしい時は水、またはおいしいコーヒー、ジュースかもしれません。この部屋にたくさんの人がいますね。みなさんの笑顔を感じてみましょう。みんな笑っています。そのエネルギーを感じます。どうやってあなたに、受け入れられるか、自分の丹田に、金のエネルギーを全部集めるんですね。
いいエネルギーを自分に得るための方法を学んで、賢くなります。よい質を自分に取り入れる。そのための選択をする必要があります。
そしてとっても重要なことが土です。取り入れて消化して吸収し、手放すということ、空っぽにするんですね。そうでなければ重たくなってしまいますし、古くなってしまいます。古いものがいっぱい入っていると、病気になってしまいます。
とっても高級でおいしいディナーをたくさん食べたら、今朝はそれを全部開放して手放しましょうと言うんですね。自分を空っぽにすることを学ぶ必要があります。感情的にも知的にも食べ物も、何もかもです。
土のところで全部空っぽにして、また一から始めてフレッシュで新しい新鮮なエネルギーを始めるんです。リサイクルするんです。毎朝リフレッシュして、そして自分を空っぽにする必要があります。リサイクルできなければ不健康になってしまいますね。
これが太極拳の基本的な原理です。
とてもシンプルで、難しいことではありません。これが智慧、常識です。太古からあるとか神秘的なものではありません。
ワダ:
太極拳や五行というと、何だか難しそうなイメージが合ったんですが、ファン先生のお話を聞くと、何だかす〜っと入ってきて、また、身体にも、心にも染みいる気がします。太極拳もシンプル故に奥が深そうですが。。。
ファン:
動きについては、いろんな違ったバージョンがあり、たくさんの種類の太極拳があります。
私は子供の頃に、太極拳を思想、哲学として学びました。自由に自然の中で動くということですね。残念ながら多くの方は、伝統的な方法を学び、こういうポーズであるべきだ、そしてこうなるべきだ、こうなるべきだ・・・笑
ワダ:
ロボットみたいになってしまいますね・・・笑
ファン:
そうです。太極拳というのはひとつの完璧なポーズではなく、いつもじっとしていることではないんですね。身体が柔軟になることを学んで、調整できるようにして、そして受容的で、いつも流れを持ち続け、いつもその瞬間瞬間にあり続ける。これは人生の実践でもあります。
人生、日々の生活でも全てのものが変わって進化していきます。何かをこのままの状態に留めることは不可能です。だからいつもその状態にあわせて調整していかなければいけません。これが人生というものです。フレキシブルで柔軟性があって、いつも気づきをもって、自分自身をどうやって変容させるか、そういうことを学ばなければいけませんね。変化と変容。つまり変化というものがただ一つ変わらないものです。
多くの方は変化を嫌います。今この状態が私は気に入っている。でも選択肢はありません。あなたがそれを好もうが好まざろうが、何かは必ず変わるんです。
ですからそういうことに対して、太極的な人間でいる必要があるんですね。
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ワダ:
これは哲学として考え方やそうした意識を身につけられたとしたら、身体は動かさなくても大丈夫ですか?
ファン:
考え方だけではダメです。体で体験しないといけません。あなたが何時間寝たとしても、いつもあなたの周りでエネルギーを固くしているものがあります。
朝起きた時に、身体をクリアにしておく必要があるんです。ですからとてもシンプルな太極拳の動きをして、滞りや詰まりを全部流しておくということが必要です。
先ほど4つの対極をやりましたが、ただこれだけをやることでも結構です。上下のエネルギーをこうやってクリアにするんですね。そして開いて肩を緩めて回して、火と水をこうして、骨盤を開いて右と左に、そしてクルっと回って、エネルギーを動かすということを学んで行く必要があります。そうすると、どこが固くなっているかな、どこの滞りを流したらいいかなということがわかってきます。これは自然な太極拳ですね。ダンス、振り付けのようなものです。
太極拳はいつでもできます。コンピューターで時間をたくさん使ったら、こういうふうに立ち上がって、そしてもう一度やるんですね。ずっとやり続けるとこんなふうになってしまいます。ですから、あなたが動くべきだっていうことを身体が教えてくれるんです。私たちは動いている動物、生き物なんです。石ではありません。
ところで中国の禅では、座って体が硬くなったなと思ったら動くんですね。禅の伝統では老師がいいと言うまで立ってはいけないという教えもありますが、そうすると身体が痛くなってしまいますよね。これは自然ではないんですね。
太極拳というものは、身体がどうやって、とても健康的に、自然に動くかというものを教えてくれているんです。ですから自分の身体の声に耳を傾けてください。どうやって動いたらいいか、何をすればいいか。日々の動きというのがベストな太極拳です。好きな音楽をかけて 踊り始める、これがベストな太極拳ですね・・・笑
ワダ:
皆さんも会社とかで、パソコンとか使っていると思いますが、身体が固まっちゃうので、時々やるといいですね。会議とかが滞る時も、立ち上がって・・・笑
ファン:
実は、私はたくさんの企業とお仕事をしています。立ちがって動くべきなんですね。
人間というのは、いつも恥ずかしがりすぎていることがあります。けれども、勇気づけて動く必要がありますね。体幹が良くない状態だと、ちゃんと考えることもできなくなります。ボディ・マインド・スピリットという言葉がありますが、身体とマインド、心、それとスピリット。とてもシンプルなことです。でも、スピリチュアルになりすぎて、考えすぎる人が多いですね。そういうふうに考えすぎているとエネルギーが流れなくなるんです。いつも太極拳を使ってエネルギーを流す。これが一番自然な太極拳ですね。不自然なものというのは難しいものです。ですから箱の中に自分を制限しないようにしてください。
鳥の巣は丸いですよね。でも人間は四角い部屋に住んでいます。こういうキッチリとしたものが好きなんですね。ですから太極拳を使えば、この四角を丸くするということにも役に立ちます。タオではこのように言っています。硬くなるということは死を意味するんですね。その人の考えが凝り固まった考えになると思考が止まって死んでいるのと同じです。
ワダ:
自然界には直線はないですからね。
ファン:
その通り、すべては曲線ですね。
ワダ:
例えば、明日の朝から身体を動かしてみようという方はどれくらいいますか?ぜひ、毎日やってくださいね!あまり形には拘らずさっきのファン先生のコンセプトだけをイメージしてやっていけばいいですよね。
ファン:
もちろん、その通りです。太極拳の動きというのは、全く同じものを繰り返すということはないんですね。毎回やる度毎に、これが初回だということでやるんですね。
ワダ:
少しずつ自分なりにアレンジして、みなさんのファイブエレメンツを楽しんでください。
ファン:
最も素晴らしい太極拳は即興なんですね。ジャズの音楽のように即興するのがいいんです。
ワダ:
そんなに拘らなくて、自分の感じた通りに身体を動かせばいいということですね。
ファン:
先生の通りにやる必要はないんです。自然の中で全く同じ形をした木がありますか?花でも1本1本違いますよね。私たち一人一人違った個人なんです。ですからあなた自身があるがままで流れるように、そして振り付けを自分自身で自分のやり方で学んでいけばいいですね。
自分の太極拳のダンサーになればいいんです。先生の通りにやって、そういうふうに見えなければいけないということではないです。
ワダ:
それを聞くとすごく気持ちが楽になりますね。多分太極拳の動きだけではなくて、普段の生活、生き方自身もそ れでいいんだと思うんですね。
ファン:
自然の法則というのはとてもクリアです。そしてそれに気づいたら実際にあなたが従うべき法則というものに気づきます。人間の身体というのは完璧な彫像のようなものなんですね。そして身体を動かした時に、本当に美しい型が既にできているんです。
太極拳がいつどのようにしてできたかご存知ですか?
これは自発的な即興的な感覚的動きから始まったんです。自然のものなんです。誰か有名な人がこういう動きを発明したから、それに従っているものではないんです。
例えばこのジェスチャー。気がここからやってきて、こういうふうに流れて、こちらから出ていく。そして上に上がって・・・というふうに流れなんですね。ポーズではないんです。気の流れです。動かして一つのポーズにとどまるということではないんです。
ヨガを伝達されている方、一つの型がありますよね。
自由な動きをやった方がいいですね。筋肉で固めるということではなく、呼吸と共に流していくということが重要です。
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大切なことは「体現する」ということ

ワダ:
漢字は象形文字から発生しているので、漢字には意味があり、シンボルとしてその意味、エネルギーが入っていますね。例えば、愛という感じの動きを辿ると、そこからそのパワーが現れてくると思うのですが、いかがですか?
ファン:
これはとても深い、深遠なシャーマンの象形文字ですが、これは二次元ではないですよね。だからこれをダンスで感じる必要があるんですね。それを書くことによって追体験をしているんですね。
太極を教えるときには、中国の漢字を使いますね。このアイディアを教える時に、生徒さん達に動いてもらって、感じてもらいたいんですね。ただ意味を学ぶだけではダメです。この意味を体現するということなんです。
例えば、今日着ているシャツなんですが、みんな知っていますね。この素晴らしいシンボル。心ですよね。中国語ではシン=中心という意味でもあります。ハート、心臓、でもそれを体現するというのは、このシンボルを、自分の身体で感じた時に、このような感じがするんですね。この動きを自分でやってみることです。自分の身体で感じて体現するという、心というものを体験するんです。エネルギーはまず自分の身体の内側に入っていって、中心に届き、そして開いて外に出る。とても深淵なものですね。
とても深く自分のエネルギーの中に、中心に入っていって、それを外に表現する。そうすると私のハートで感じるという時はエネルギーなんですね。
この言葉。愛。ここにハート、心がありますね。中国では、愛という文字は簡素化されて、心を外して書いているんです。とっても危険なことです。愛から心を外す。ハートがなくて人を愛することができるでしょうか?中国の歴史では、本当に悪いと思える出来事がたくさんありました。例えば文化革命とか・・
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何故こんなことが起きたのかというのは心、ハートを失ってしまったからなんです。知的な方々がみなさん気づき始めています。ハート=心を取り戻さなければいけないと。このエネルギーなしでは無理ですね。中国に行くたびに講演するんですが、私たちはこのハートを取り戻すべきだというと、全員が同意してくださいます。。
象徴的なものですけれども、シャーマニックなもので、自分の中に既に埋め込まれている、とってもパワフルなものなんです。ですからそれぞれの漢字がダンスなんですね。あなた自身が人間として完全に体験できるものなんです。そして漢字を使われるからご存知だと思います。日本の皆さん、ハートを無くさないでくださり、ありがとうございます。
ワダ:
愛っていうのを思い浮かべたり、瞑想したりするより も、愛そのものの体の動きを、体現しただけで、そのエ ネルギーが昇華していくっていう感じがしました。
ファン:
身体全体でこれを感じる必要があるんですね。素晴らしいシンボルです。愛がよくないっていう方はいないですよね。でもこの愛に関してそれぞれ違った考え方を持っています。
一部の方は、愛というのは苦しみだと感じる方もいらっしゃいます。何故ならその人にとっての愛は完璧なものでないから。
もし私が愛していると言ったら、本当に愛していますよ。愛は素晴らしいものです。全員を愛しましょう。みなさん愛に関して学びましょう。この世界に愛が少なすぎます。そう思いませんか?
でも私がこうやって感じることは、どうでしょうか。(愛という漢字をなぞるように動く)
この素晴らしい感謝でいっぱいになって感じるんですね。それをこの世界全部の人たちとシェアしたいって思うんです。これが人間です。
では、みなさん立ち上がって一緒にやってみましょう。みんなで愛のカタチをやってみましょう。
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ここにたくさんの気があります。私に入ってくる、そしてそれを広げて受け容れます、私を満たしてくれ、強い部分で感じます。あなたとも、あなたとも、あなたともシェアしたい。世界全体の愛する人間たち。愛・愛・愛、これが完全な体現。
これを理解して、どうやって愛という漢字を感じるのか。これを体の中で体現するんです。知的なものではありません。感じるだけでいいです。
これをシェアしなければいけません。繋がりを表現するんです。そうでなければ何で愛っていうことができるのでしょう。LOVE・素敵って言う言葉、英語では意味を失ったものになっています。でもこのシンボルを見ながらたくさんのものが自分にやってきている。そのパワーを受け取ることを本当に感謝している。そして自分のハートにいっぱい入っている。パワーで満たされているので、みんなにあげたい、これを触れて感じたい。これが完全な愛というものの体現です。
この愛というものは、あなた自身の感情的な情熱よりももっともと大きなものです。それをダンスしながら身体全体全体で、心で感じる時に、本当の意味がわかるんだと思います。
では、愛がわかったら、今度は心をやってみましょう。深く、そしてハートを溢れるようにださなければいけないですね。そうでなければ心臓発作にでもならない限り、ハートが何かってわからないですよね。ですからこういうふうに表現する必要があります・・・
そのあとは大。大というのは大きなこと。ですから全ての漢字というのは、あなた自身が身体全体、精神全部を使って表現すべきだということです。これは私たち全員に対する贈り物だと思うんですね。私たち中国人、日本人は漢字の元々の意味がとても大好きですよね。
これは中国語や日本語に限られたことではなく、ユニバーサルな言語です。そして私がヨーロッパとかアメリカとか過去60数年間もご一緒させていただける機会をいただいて、光栄に思っています。
日本人として、中国人として、伝統として受け継いでいうことについて、誇りを持ってほしいですね。若い中国人、日本人は言葉を使っていても、本当の意味を理解していないかもしれません。ですから、心というものがあなたにとって本当の意味になるとうことを望んでいます。漢字は、私たちの世界に対する贈り物なんです。素晴らしいエネルギーですね。
ワダ:
本当にそうですね。素晴らしいと思います。
さて、あっという間に時間の方も過ぎてしまったんですが、今日は、本当にシンプルながら深い智慧をファン先生からお聞きし、また、体現することもできました。本当にありがとうございました。また、日本に来られる時には、多くの皆さんに、ファン先生と一緒に、太極、そして、『道』(タオ)を感じていただきたいと思います。
今日は、本当にありがとうございました。
ファン:
また、日本の皆さんとご一緒できる時を楽しみにしています。ありがとうございました。

ご参加の方からファン先生への質問

参加者:
昨年、虎を抱いて山へ帰るという言葉を聞いて、その真髄は何だろうと思い、たどり着いたのがこの本だったんです。(ファン先生の著作「虎を抱いて山へ帰る」)読んでいてとても感激したんですけれども、この本は何年も前に書かれていますが、この虎を抱いて山に帰るという意味、真髄とはどういうことなのか、直接お聞きしたいです。
ファン:
アジア人と西洋人の明確な違いがありますね。
例えば西洋人というのは、龍を殺さないといけないと考えます。龍っていうのはあなた自身を邪魔している、留まらせている、あなたをハッピーにしない、あなたの成功を邪魔しているという前提なんですね。龍があなたがあなたの至福に従うことを邪魔しているものだというふうに考え、龍をネガティブなものに位置づけているんです。でも東洋では違います。東洋では龍をとても好きです。
中国では虎、龍というのは意識を象徴しています。
虎というものは、恐怖を象徴しているものなんですね。虎はあなたを襲い、あなたを食べます。太極拳の思想では、もしあなたが何かを怖れていたら、それを殺さないようにと言うんです。それを抱いて向き合う。自分の怖れを自分の腕の中に抱くんです。殺したり闘うのではなく、これは私の怖れなんだから受け入れる。
虎に怖れを感じたら、なぜ怖れを持っているのかということを学ぶ必要があるんです。
ですから、人生では難しいこと、困難なことがあってもそこから逃げないで、学ぶのです。なぜそれが困難なのかということを学んで、自分自身のパワーを信頼して、ちゃんと前向きに向き合って、それと対峙するんですね。これは私自身なんだからということで象徴的なものなんです。
人生で困難なことが例えどんなことあれ、それを感じて学んで抱きしめてください。何故ならそれはあなた自身だから。そして山に帰るということです。西洋の考えとは随分違います。
西洋では山に登りたい!というのですよね。もっと高くに、あそこの高いところにもっといいものが何かある、だからそこに到達しなければいけないっていうふうに。でも人間の身体を見てわかります、こうやった時に既に身体の中心を崩していますね。あそこに行こうと思っているのに、それでパワーを失ってしまうんです。ここじゃない場所、どこかに行きたいと思うことで、もうバランスを崩してしまう。このポーズになったらもう、弱い立場になってしまいます。ですが、太極ではこう教えます。もしあそこに行きたいけれど、今ここにある場所が十分に高くないというなら、そこで学んであなたの足元の大地をもっと高くするということを学ぶ必要があるんです。
あなたが今いる場所は、実は既に山頂なんです。そして、自分をより良くして上昇させるんです。ですからグラウディングした状態で大地を突き上げるんですね。今私がいるこの場所は好きです。もう既に私は山頂にいるんです。一生懸命がんばります。もっと高くなります。
ですがちゃんとグラウディングをして、あそこに行こうとするのではなく、自分の山に戻ってくるんですね。それによって強くなれるし、もっと高くなります。
私自身も大好きだ、ここはいい、この硬い大地から始める。私はハッピーである。これが自己価値、自信、そしてそこからより良くすることができるんです。
これが「虎を抱いて山へ帰る」というタイトルの意味なんです。
* 編集協力 : 藤田明子
facebookコメント ご感想などご入力ください。
【取材後記】

ファインディング・ジョー「英雄の法則」を知るまでは、ファン先生のことは知らなかったのだけれど、ファインディング・ジョー「英雄の法則」の中でも、とってもシンプルだけれど、わかりやすく奥深いメッセージを伝えてくれていた。実際に会ってみると、思っていた以上に気さくで、御年78歳ながら、何よりも、年齢を感じさせないとってもパワフルで、スピード感のある方だった。やはり太極拳が先生の若さの源だそうだ。

好奇心旺盛で、まるで子供のように自由で、リラックスしていて、のびのびと、いつでもどこでも、ふと見るとダンスのようにしなやかな太極拳を舞っている、楽しい先生だ。

先生は、建築を学ぶために香港からアメリカの大学へ進学し、その後ロサンゼルスで建築事務所に就職して働いていたところ、ハリウッドのとある交差点で、あの世界的なエンターテナー、サミー・デイビス・Jrに突然声をかけられ「中国人のダンサーを探しているんだけれど、ちょうどいいところにいた。君は踊れるか?」といきなり言われ、子供の頃から太極拳をやっていたので、興味を感じオーディションへ、結果、サミーの全米ツアーのバックダンサーとなり、建築の道からショービジネスの世界へ。。。映画にもいくつも出たこともあるそうだ。。。

先生のお話を聞いていると、有名なハリウッド俳優や様々な著名人の名前がポンポン出てきて、親交があり、友達と言うことで、驚かされるばかりだったんだけれど、中でも、ファインディング・ジョー「英雄の法則」のテーマともなっているヒーローズ・ジャーニーのジョセフ・キャンベルとは大の親友だったそうだ。

先生が伝えるリビングタオという「人生をいかに生きるか」ということを日々の生活の中から見出していくという思想、考え方は、実はとても奥深くて、常に自分の中心であり、自分が立っている大地、足下からバランスを整えて、すべてはそこから始まり、天へ地へ、そして空間全体へと拡がって行く世界をどう創造していくのか、それはもっとも根源的な自分からしか生まれず、そのためにも、自分の中心を見出すために、太極があり、身体で体現していくということの重要性を伝えてくれる。

香港の外れで、農作業する人々が踊るようにやっていた太極拳を幼少期から覚え、文化であり、身体に染みつくように学んだ太極拳。そして、建築に興味を持ち、中国からアメリカへわたり、建築を学ぶ中で、自分自身の身体に建築と同じコンセプトを見出しながら、華々しい世界も垣間見た先生。

人生はどんな出来事があるかわからないけれど、何か直感を感じ、興味を感じたら、迷わずそれに飛び込んでみるといい。そして、思うがままにやってみる。必ず不思議な導きがあって、自分が予想もしなかった素晴らしい未来が待っている。実際に、そうやってこれまでやってきたからねと、人生をずっと楽しんで来たファン先生。気づきと学びいっぱいの素晴らしい老師でした。。。まだまだお元気なので、また、日本にやって来て、その叡智を伝えて欲しいと思いました。

ツォンリャンアル・ファン
プロフィール

リビングタオ財団創設者
太極拳マスター

ジョーゼフ・キャンベルの長年の友人であり同僚。太極拳、道教と修養法に関する権威。マインド・ボディ・スピリットの統合に関する著作のベストセラー作家。役者、芸術家としても知られている。

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