ピーター・ドラッカースクールで瞑想?
和田:  今日のゲストは、あのピータードラッカースクールで、経営者に瞑想を教えられているという、ジェレミー・ハンター教授です。
こんにちは。
ハンター:  こちらこそ、ご参加いただきありがとうございました。
和田:  僕は、今年の五月に、ロサンジェルスのマリーナ・デル・レイで行われたLOHAS11(アメリカで行われる世界的なLOHAS会議)に参加して、その時も、ハンター教授の講演をお聞ききしました。その時、何よりも、経営学を学ぶMBAのコーで、しかも、ドラッカースクールで瞑想が教えられているということに、とても驚きました。ドラッカースクールだからこそ、瞑想なのかもしれませんが・・・
ハンター:  笑・・・そうですね。実は、私の専門分野はセルフマネジメントです。瞑想は、その中で、私が教えているものの一つです。しかし、瞑想は、その中でもとても重要な部分で、少なくとも50%は瞑想が占めています。瞑想は、正式なものと、日常的に簡単に行えるものと、大まかに二つの種類があります。

和田:  両方の瞑想を教えられているのですか?
ハンター:  そうですね。
和田:  それは、理論と実践的な方法ということですね。
ハンター:  はい。
和田:  実際の授業の中では、どんなかたちで教えられているのでしょうか?
ハンター:  それは、普通のクラスで教えているんですが、ごく一般的な授業とあまり変わりありません。
和田:  瞑想というと、瞑想ルームとか、静かな場所やお香を焚いたりといったイメージをする人も多いと思いますが。
ハンター:  そうですね。でも、瞑想は、特別なものではないですから・・・笑。
和田:  なるほど。
 僕なりのセルフマネジメントの知識や方法は持っているつもりですが、昨日、ハンター教授のセルフマネジメントのセミナーを受けて、改めて、たくさん勉強になりました。一般的に、多くの人は、セルフマネジメントについての知識はほとんど持っていないんじゃないでしょうか?
ハンター:  笑・・・えー、そうですね。。。たぶん、そう言えるかも知れません。
和田:  朝、顔を洗ったり、歯を磨いたり、体操したり。。。そう言うことはあると思いますが、セルフケアとセルフマネジメント違いますよね。
ハンター:  そうですね。少し違いますね。私の視点からすると、セルフマネジメントは、「瞬間」を扱うものです。セルフケアは、トレーナーやセラピストに会ったり、毎日水泳するとかということですね。自分をマネジメントするということは、自分の瞬間、瞬間の中の内的なプロセスなんです。
 メンタル(精神的)、フィジカル(身体的)、エモーショナル(感情的)な全ての部分に於いてです。
和田:  一般的な人にとって、セルマネジメントは身近なことではないかも知れませんが、ピータードラッカースクールは、経営学を学ぶ大学院大学ということで、多くのマネジメントに携わる人々が学びに来ますね。そんな彼らにとっても、セルフマネジメントは意外にできていないものなのでしょうか?
ハンター:  ピーター・ドラッカーは、30年以上もセルフマネジメントの重要性を説いてきました。そして、私は、その意味とは何かについて、深く研究してきました。彼にとって、セルフマネジメントと言うのは、自分の強みや長所、精神力を理解するということでした。
 私たちは、その強みからアイデアを得ることができ、とても微妙な感情や考え、身体の動きを管理することで、その長所の上に、さらにアイデアを創造することができると思います。
 ドラッカースクールにとって、自己管理することは、当たり前のことです。あなたは、他人を管理することはできませんが、自分自身を管理することはできます。
和田:  例えば、経営に関わっていない普通の人々は、自己管理に関して意識が低くて、ましてや、瞑想なんていうと、とても身近なものとは思えないのですが・・・
ハンター:  そうですね。でも、意外にそうでもないんですよ。例えば、一度、瞑想を授業などで受けるととても興味を持ちます。なぜなら、みんな何らかのストレスを抱えていますから。
和田:  みんな実際に瞑想を体験すれば、そうしたストレスは和らぐので、理屈ではなく、すぐに理解できると思います。
ハンター:  そうですね。実際に体験すると、自分自身の人生の変化を見ることができます。感じ方や人間関係など・・・

和田:  今年、5月に開催されたLOHAS11(LOHAS会議)で、ドラッカースクールで瞑想を指導しているということを知って、僕は、本当に驚いたんです。
 日本では、どこかの経営学のコースで、瞑想を教えているところなんてるのでしょうか?座禅合宿なんていうのはありそうですが・・・ビジネスと瞑想というのは、直結していないと言いますか・・・
 MBAというのは、戦略とかマーケティングといったイメージがあったので、瞑想というと、もっと、精神世界的なイメージがあったものですから。
ハンター:  私たちは、知識経済の世界に生きています。私たちは、生活のためにマインドを使います。だから私たちは、マインドを開発しなくてはいけないのです。 
 また、焦点をあてたり、集中できるようにならないといけません。そうして、自分の内的な部分がどうなっているのか、管理できるようになる必要があります。そうすれば、よりよい人生を送ることができるはずです。それは、とても実際的で、実践的なものなのです。
瞑想の方法にはこだわらない。大事なのは、注意を払うこと。
和田:  ピーター・ドラッカー氏は、瞑想されていたんでしょうか?・・・笑
ハンター:  してないと思います・・・笑
奥さんに聞いたことがあります・・・笑
 でも、彼は、アジアに対して深い理解を持っていましたし、特に、日本のアートに対して造詣が深かったです。彼は、ポモナカレッジの日本美術の教授でもありました。彼は、たくさんの禅の絵画(書道)を学びました。たぶん、これは私の推測ですが、それらのフィーリングは、彼の人生や活動に影響を与えていた事でしょう。なぜなら、彼は「注意、注目すること(Attention)」の重要性を強く認識していましたから。しかし、彼は、正式には瞑想家であったというわけではないでしょう。
和田:  瞑想と一言で言っても、様々な瞑想のスタイルがあります。一般的には座って行うのもですが、例えば、僕は四国をお遍路しているんですが、歩き瞑想と言われるものもあります。ハンター教授もいろんな瞑想のスタイルを教えられますか?
ハンター:  私の学生のほとんどは、大学院生で、働いている人々であったり、家族を持っていたりします。なので、彼らは、あまり自由な時間を持っていません。ですから、私は、彼らが普段の生活の中で、すぐに使えて、正式な瞑想の訓練と同じように効果のある方法を与えられるように努力しています。
 私は、それらの素晴らしさを理解していますが、多くの人は、初めは時間の無駄だと感じたりします。でも、次第にそれが好きになり始めるものです。
和田:  僧侶の世界では、厳しい戒律などがあって、例えば日々の掃除や托鉢、経文を唱えるなど、ある種の単純な労働的な部分がありますよね。また、チャーリー・チャップリンの映画「モダンタイムス」で、工場労働者として同じ作業をやり続けることをユーモラスに描いたシーンがありますが、ある意味で、これらのような決まったことを毎日やり続けることは、ひとつの瞑想効果があるのではないでしょうか?
ハンター:  そうだと思いますね。注目の質は、あなたの経験をもたらすでしょう。 あなたの注目の質の問題なんです。あなたが何をしているかが問題ではなく、あなたの注目の質が大事なんです。
和田:  実は、注目する方法は何でも良くて、自分のマインドセットのクオリティが高ければ、メディテーションの方法は何でもよいということと考えてもいいでしょうか?
ハンター:  そうですね。そう言ってもいいでしょう。
和田:  なるほど、アテンションですね。昨日のセミナーでも、その重要性について注意深く説明されていました。
ハンター:  そうです。
和田:  「注目」ということが理解できれば、人生の問題の多くを解決できるかもしれませんね。
ハンター:  そうですね。

和田:  ピータードラッカースクールでは、瞑想はごく普通のことだといわれましたが、アメリカの一般的な企業ではいかがでしょうか?
ハンター:  アメリカの普通の会社ではどうかわかりませんが、アメリカの文化の中では、とても一般的になってきているように思います。少なくとも1000万人以上の人が、何らかの瞑想を行っています。主に、医療の背景からのものですね。
和田:  多くの人は、メディテーションについて、誤解をしていますね。
ハンター:  そうですね。日本においても同じですね・・・笑 やはり、瞑想は特殊なものと思われているでしょう・・・笑
和田:  日本を含めて、アジアにはもともと非常にスピリチュアルな考えや伝統があります。そういう宗教的な考えや哲学的な考え方が僕は好きなのですが、アメリカでは、そういう東洋思想のようなものを企業の経営に取り入れるようなこともあると思います。
 例えば、アメリカでは、企業が先住民の考えやものの見方みたいなものを取り入れたりとかっていうのもありますか?
ハンター:  あまりないと思いますが、でも、確かに、先端の分野では、総合的なライフサイクルを生み出す考え方のひとつだと思います。
 ネイティブアメリカンの考え方も似たようなものがありますね。彼らは、自然の循環を考えています。なので、ウィリアム・マクドナヒューが言っているように、「ゆりかご」から「ゆりかご」までというような、無駄がない自然循環の考え方がありますね。
和田:  シューマッハーの「スモール・イズ・ビューティフル」を愛読しているんですが、彼は、例えば、人々が友人と話をする時に、あるシャツを3000円で手に入れたとすると「それはいいね」と、手頃な値段で手に入れたことを評価する社会になっているというんですね。それが経済的かどうかでものを推し量っている。でも、本当のものの価値は、人の価値観によって異なるけれど、その商品がどういうものなのか、商品そのものが評価されたり、それがとても似合うよとか、素敵なデザインだねとか、お金に関係ない価値判断であってもいいわけです。本来人間にとって、経済よりも、宗教や芸術はもっとも崇高なものだと彼は言っています。
 資源はすべて有限ですよね。風とか水とか、サステナブルな自然からエネルギーを得るのはOKだけれど、いまのこの世界は、有限な資源に依存している。だから、今のような経済システムはいつか限界が来るということを30年以上も前に言ってるんですね。では、いったいいつからサステナブルな社会をはじめるのか・・・
 実際に、いま、世界は非常に厳しい現実を目の前にしていますが、ドラッカースクールでは、そういうテーマは、どのように伝えているんでしょうか?
ハンター:  米国では、グリーンMBAプログラムというのが始まっています。特にサンフランシスコとかですね。私たちは、地球温暖化への対策の戦略に焦点をあてたクラスを持っています。ポストカーボンエコノミー(脱炭素型経済:脱化石燃料や資源に頼った経済)なんて、私たちは考えてもみたことがなかったですよね。私にとって一番よい解決策とはなんでしょうか?
 私たち人間は、いつも決まったパターンやライフスタイルの中で生きています。カーボン経済からポストカーボン経済へ、そのような思い切った変化をしなければいけません。
 私たちは、外的な文化ではなく、内的な文化への変化が求められているのです。私のゴールの一つは、人々にどのように幸せに生きるか、購買なしで、物質に頼らないで生きること。物質に頼らなくても幸せになれます。だけれど、私は物質も好きです・・・笑。でも、この人生の中で、たった一つでいいんです。
 パラダイムシフトは、外面、内面の両面で起こるでしょう。幸福や友情、信条、私は、みんなが内なる自分と活動できるような、そんな考え方や情報を提供したいのです。
和田:  そのように大胆に変化していくためには、どのくらい時間が必要でしょうか?
ハンター:  笑 ああ、それには、ちょっともう手遅れかもしれませんね・・・爆笑

和田:  爆笑
ハンター:  でも、私は、楽観主義者になったんです。この21世紀の初期を越えていくのは簡単なことではないかも知れませんが、人間はバカではないですからね。みんな変わることができます。変わらなければいけないから、変わっていくと思います。
 江戸時代から今日の昭和、平成時代への変化を考えてみるならば、たった100年で全く異なる世界へと変化しています。きっと、そのように変化できるはずです。江戸時代には電気はありませんでした。そう考えると、これからどのような変化が起こりうるか・・・もっと創造的になれるでしょうね。
和田:  最近、社会起業家と言う言葉が注目されていますが、そう言った考えは、大きなトレンドとして捉えられていますか?
ハンター:  ええ、私の学生にも何人かそうした方向を目指している学生がいます。例えば、一人は、ワイナリーの経営を考え、利益の一部を寄付し、NPOとして経営していくというプランです。映画俳優だったポール・ニューマンは、食品製造会社を設立し成功して、その利益を全額寄付したりしましたが、そういうことをやりたいようですね。
和田:  社会起業家のような活動も、世の中が変わっていく一つの動きとしてありますね。
目を閉じて、何も考えず、センターに戻る。
和田:  お話を瞑想に戻したいのですが。
 そもそも瞑想というのは、簡単に言うとどのように表現できるでしょうか?
ハンター:  そうですね、シンプルに言うならば、注目する力、注意力の開発ということです。それは、あなたが注意を払うことができると言うこととは異なります。
 「注目」と一言で言っても、それは異なる質を持っています。瞑想は、普段何かに注目することとは違った質の注目を開発します。瞑想は、注目することに集中する練習です。何が起こっているかを見つめ、また、注目することに意識を開いく練習です。そして、周囲の環境との距離を置くことです。

和田:  注目することは、なぜ重要なのでしょうか?
ハンター:  注目は、人間の意識の最も基本的な側面だからです。注目なしでは、何もありません。それは、自分の気づきの中に、情報が入ってくることを許すことです。私たちは、普段、分析や考えることを訓練しますが、知覚することは訓練しません。ピーター・ドラッカーでさえ同じです。
 分析することは充分に訓練されますが、知覚することは十分に訓練されません。我々は、人々が物事をもっとクリアに見るためのシステマティックな教育を行っていないからです。
和田:  瞑想することでよく間違えるのは、瞑想=考えるということをすることです。例えば、何かのテーマを持って、静かな環境で、目を閉じて、何かインスピレーションが来ないかと、ずっと考えるということは瞑想ではありませんね。
ハンター:  それぞれの人が、いろんな考え方で瞑想を行っていますが、適切な使い方ではないと思います・・・笑 でも、瞑想の副次的な効果として、時々、いいアイデアを思いついたりしますね。学生の中には、瞑想中にいいアイデアを思いついて、ノートにメモし、また、瞑想に戻るという人もいます。でも、それは主要な目的ではありません。
和田:  瞑想は、考えるためにするのではなく、注意することに集中するだけで、いろんな考えや思考、思いが湧き起こって来ますが、気がついたら戻るということを繰り返すだけで、何も考えない、センターに戻る、注目することに戻るということと考えていいでしょうか。
ハンター:  瞑想としての特別な訓練は、安定性を開発することについてだけです。そして、高いレベルの注意力を開発し、様々な体験ができることは事実ですが、私の見解では、瞑想は、苦難の原因となる自分や他の人のパターンを見つめるのに、もっと役立つものです。
和田:  瞑想に音楽を使ったりしますか?
ハンター:  授業の中では使いません。個人的には使うこともあります。
和田:  瞑想に、マントラを使うことなどを指導されたりしますか?
ハンター:  それはしません。私の方法ではないからです。でも、それは他の人には役立つ人もいるでしょう。でも、私にはあいません・・・学生には、自分なりの方法を見つけるように勧めています。
和田:  昨日、セミナーでお話しいただいた、注目するためのアンカーポイントというのは、瞑想する時、例えば、赤とか黒の注目する点を思い浮かべる。または、そうではなくて、ただ、自分のセンターポイントに戻ると言うことなのでしょうか。
ハンター:  それは、いい質問ですね。学生の中で、何か点を視覚化することが難しいという人たちがいます。そう言う場合、私は、努めて物事をシンプルに伝えようとします。別に点ではなくて、漠然とでも、中心をイメージすることでも充分です。
和田: 瞑想の手法は、昨日お話しいただいた方法の他に、教えられていますか?
ハンター:  そうですね。全部で5種類の瞑想法を教えています。
和田: それによって、得られるものは異なりますか?
ハンター:  いくつかの方法を試してみて、何か一つ魅力的なものを感じたら、その方法を使えばいいと思います。具体的に何を得るか、感じるかは、それぞれです。
瞑想は無数の方法があります。私が教えられるのは、5つしかありませんが・・・笑
和田:  ハンター教授は、普段、どんなスタイルの瞑想をしていますか?
ハンター:  正式には、枕のようなクッションをおしりに敷いて、座って足を組んで瞑想しますが、普段はどこでも瞑想します。特別な姿勢は必要ありませんが、姿勢を正して行います。

死を覚悟する体験が、人生を変えた。
和田:  ハンター教授は、瞑想には、いつ頃、どのようなカタチで出会ったのでしょうか?17歳で座禅に出会ったとお聞きしましたが。
ハンター:  そうですね。初めは、本を読んで興味を持って始めました。私は、オハイオ州の田舎の小さな町に住んでいました。そこで暮らすのは辛かったんですね。それで、自分の内にこもっちゃったんです・・・笑。
和田:  笑・・・妄想の世界、ファンタジーの世界に入っていったんですか?
ハンター:  いえ、逃避のようなものですね・・・笑
 9歳か10歳くらいの頃でしょうか。17歳で瞑想を始めました。18歳の時に、私の教授が禅の本をくれました。それは、とても役立ちました。その頃、毎日30分間瞑想していました。
和田:  大学では、瞑想のコースを学んだと言うわけではないですよね・・・笑
ハンター:  最初の学位は、東洋学です。それから、公共政策、最後は人間発達学で博士号を取りました。私は、いつもどのように人間が進歩、発達していくのかに興味があります。理想的な生き方、いい人生とは何か。
和田:  ケン・ウィルバーとか、ニューパラダイムと言われるような思想家の考え方などには、関心がありますか?
ハンター:  最近は、本を読んだりしますが、基本的に、自分の方法で研究してきました。一番大事なのは、本を読んで推測するよりも実践することです。私は長い間ずっと実践を続けて、考えを語るよりも、自分のやり方を開発してきました。
和田:  禅に興味を持たれたのは、やはり、ハンター教授が日本人のハーフということがありますか?
ハンター:  確かにそうですね。私は、10代の頃、毎年夏、たくさんの時間を日本で過ごしました。
和田:  オハイオ州には、たくさんの日本人が住んでいたのでしょうか?
ハンター:  そうですね、ホンダの工場とかがありましたから。
和田:  そこでは、やはり、マイノリティに対する差別とかありましたか?
ハンター:  そうですね。高校生の時まではありました。日本人はいませんでしたから。学校全体でアジア人は3人くらいだったでしょうか。
和田:  それが、現実逃避の原因の一つだったんでしょうか?
ハンター:  そうですね・・・笑
田舎であることと、環境はとても深い関係がありましたね。

和田:  昨日のセミナーでお話をお聞きしましたが、20歳の頃、腎臓の病気で、生存率10%だったにもかかわらず、病を克服されたことも、人生を変える大きな出来事だったのではないでしょうか?
ハンター:  治療の方法がなかったんですね。死ぬか、自分の内面を見つめていくしかなかったんです。健康の問題。身体の問題と精神の問題ですね。そこで、自分の身体に、いったい何が起こっているのかを、探究しました。
和田:  その時、死は覚悟されていましたか?
ハンター:  ええ、それは考えましたよ。それで、あと5年生きる。その間にやりたいことを全部やるって決めたんです。それだけが一つのルールでした。
 もし、どこかに行きたいなら行く。何かをしたいならするということ。自分が興味を持っていることに対して、止めたり、遅れたりしないということです。しかしながら、自分はこれから生きていくんだっていう風に思うようにしました。30歳の時に、私は、全ての目標を完全にやり遂げましたわけです。それで、よし、これから自分はどうするか・・・そう考えたんですね。私は、24歳の時にハーバード大学を卒業して、25歳でPhD(博士号)を取得しました。その時はとても面白かったです。こんなことが起こるなんて全く期待していなかったから。それで、私は、次は何だって考えて、現在のセルフマネジメントに行き着きました。
和田:  その身体の問題はいまも抱えているんですよね。
ハンター:  そうですね。全く解消しているわけではありません。
和田:  現在まで、健康に生きて、活動できているのは、やはり、瞑想効果と言いますか・・・
ハンター:  そうですね。それは強い関係があると考えています。
和田:  20歳の時に死を覚悟する経験があって、その時に、覚悟を決めて、やりたいことをするぞって成し遂げて、それがあったから、また、その先が見えてきたわけですよね。
ハンター:  はい。その時は、本当に大きな恐れがあったし、ウツになって、深い悲しみもありました。言ってみれば、病気は一種の祝福なんです。そんな時、あなたは、その体験から、これまで気がつかなかったことが何かを理解することに利用できるのです。
和田:  いまも、病気への恐れとかはありますか?
ハンター:  それは、もう、克服しました。
和田:  人が苦しんでいたりとか、病気の方々がウツになっていたりとかの時、体験者として、勇気づけることができますね。
ハンター:  嬉しいことに、一人の日本人の学生がいて、彼のお父さんは、腎臓に問題があり、落ち込んでいました。とても日本人的といいますか、自分のデータを調べて、チャートを作ったりしていたそうです。
 私が、学生に伝えたのは、そんなもの気にしちゃいけない。そんな事よりも、どうしたら上手くいくだろうかとか、健康とは何か考えたり、そんなチャートよりも、何か楽しいことをするように。そんなもの捨ててしまい、病気のことなんて、忘れてしまうこと。病気に集中するのではなく、ただ、楽しむようにと。
 その後、彼のお父さんは、ひまわりの絵を描くことを初めました。ひまわりは、健康を象徴するものであり、生きるということを表現していたからです。その二ヶ月後、学生は教えてくれました。お父さんは、本当に変わって、幸せになり、毎日ゴルフに行って、すっかり楽しんでいます。

和田:  多くの人はネガティブなことを考えがちですね。
ハンター:  すべてのお医者さんは、患者に病気を宣告しているわけですね。やっぱり、頭で考える影響は強いですから、死ぬと聞かされたら死ぬことばかり考えるわけです。生きることを決めれば、たぶん、生きられるでしょう。
暗闇を体験することは、大切な儀式です。
和田:  いま、スピリチュアリティに注目が集まっていますが、これは、物質世界の行き詰まりや地球温暖化のようなリアリティのあるクライシスから来ていると思うんですが、ハンター教授は、スピリチュアリティについてどのように考えていますか?
ハンター:  そうですね。私のクラスでは、スピリチュアリティに関しては、話したことはありません。でも、みんなそれぞれにスピリチュアリティを持っていると思います。それを教えるのは私の役割ではありません。私の役割は、彼らが彼らであるように手助けすることです。
 私には、キリスト教の生徒もいますし、仏教を信仰している人もいます。また、無神論者もいれば、資本主義信奉者もいます。彼の宗教はマネーです・・・笑 私は、みんなをサポートしなくてはいけません。
 スピリチュアリティを語るのは、とても簡単で、抽象的です。私は、工業都市出身で、ずっと実践的に考えることをやってきました。いい考えを提供して、どのくらい人に役立つか・・・。彼らがすぐに使えるツールを渡すことに努力してきました。
 スピリチュアリティを語ることは何も意味がありません。それは、自分の暗い部分を見ているようなものです。
和田:  映画スターウォーズで、ダース・ベイダーは、昔、素晴らしいジェダイの騎士だったわけですが、自分のダークサイドに堕ちてしまいます。パワーのある人ほど、ダークサイドも大きいのかも知れません。ダース・ベイダーもセルフマネジメントや瞑想の習慣があればよかったでしょう・・・笑。
ハンター:  彼らのような人々は、ツールが必要なんです。スターウォーズ2で、ルークの夢のシーンだったでしょうか、ルークが洞窟に入って行くと、そこにダース・ベイダーがいて、ライトセイバーで戦います。ルークがベイダーの仮面を切ると、仮面が割れて、ルークの顔が見えるというシーンがあります。
和田:  はい。憶えています・・・笑
ハンター:  私は、丁度、香川県の直島に行ったのですが、そこで体験した南寺というジェームズ・タレルの作品を思い出しました。それは、とても美しい比喩だと思うんです。南寺に入ると、中は、全くの暗闇です。何にも見えません。暗闇と自分だけです。ただ、暗闇を見ているだけです。
 ダース・ベイダーは、内側にいるあなたです。その作品からいくつかのことを学びました。一つは、暗闇に入ることの大切さです。人間の文化では、いつも暗闇にはいることは、何かの儀式なのです。神秘の中に入ることです。神秘と向かい合うことです。私は何もわかりません。全ては私自身の中にあります。それは、とても信じられないような変容です。
 丘の上には、護王神社があって、これは、杉本博さんの作品になっていますが、そこには洞窟があって、それも驚くべきものです。神社との大きな結びつきなんです。
 神社の洞窟に入ると、あれは何だろう?私にとっては母親の子宮のようなものです。中は濡れていて、へその緒のようなものがあります。そして、再び外に出ました。それは、再誕生、再生を体験するんです。
 儀式をすることは、自分を浄化するという体験に向き合うことです。それは、あなたが言っていた、インディアンのスエットロッジと同じような体験です。
 真っ暗な場所に入って、苦難と出会い、そして、戻ってくる。それは、自分自身を浄化することなのです。この社会は、暗闇を失ってしまいました。知識は、暗闇に入っていくためにとても重要なものです。私たちは、何かを譲り渡さなければいけません。
 南寺では、暗闇に入ったとき、私は恐怖を感じました。でも、そこに留まっていたら、何かぼんやりと薄明かりが見えてきます。とてもかすかな光です。私は、最初は映画か何かかと思いました。丁度、映画が10分後に始まるような感じですね。でも、実際は、ちょっと待てよ・・・この光は常にここにあるものだ、変わっているのは、自分の身体なんだ・・・。これは、本当にすごいと思いました!なぜなら、これは、スピリチュアルな修行の完全なメタファーだからです。何か外が変化しているのではなくて、自分の内側の何かが変化しているんです。
 私は、暗闇に入っていくことが必要とされ、暗闇の中では恐れを感じ、恐れの中で呆然とたち続けます。そして、私は、光を体験します。
 女の子が、悲鳴を上げたりしています。怖い、怖い・・・と。現代の社会では、意識的に暗闇に入っていくということはないわけですね。
 重要なのは、病気です。病気は一種の暗闇です。病気は、煩わしさや恐れをもたらし、暗くて恐ろしい空間なのです。私は、そこに留まり、恐れや暗闇とともにいて、変容するのです。
和田:  30年くらい前まで、日本は暗かったと思います。これは、照明の話です。特に、地方では、押し入れや納戸に照明があるわけではなく、怪しげな虫がいたりして、田舎に行くとトイレが離れだったりしました。そして、トイレはくみ取り式で、大きな穴が空いてるだけです。これは、本当に恐ろしいものでした・・・笑
ハンター:  私も、知っています。それは・・・笑 地獄です!

和田:  いたずらとかすると、押し入れに閉じこめられます。これが怖いんです・・・笑
ハンター:  笑
和田:  そういう闇が、今はとても少なくなりました。クローゼットは明かりが付くし、トイレは明るく、きれいです。外に出ても明るいですよね。いろんな照明で。子供たちの心の中も照らされていて、隠れる場所がないような。そうすると、もっと深く暗い部分に逃げ込んでいくのかもしれないですね。隠れ場所、自分のスペースがないというか。
 南寺のメタファーというのは、自分の場所に一度戻るというようなものと言うことができるし、瞑想もそうですね。
ハンター:  そうですね。
 私は、直島で2日間過ごしましたが、南寺に5回も入りました・・・笑
和田:  地中美術館には行きましたか?
ハンター:  はい。
和田:  あちらにもジェームズ・タレルの別の作品がいくつかあります。タレルは、僕の大好きなアーティストの一人です。あそこに、ブルーの空間に入る作品があります。目が順応して、入り口に振り返ると、外の世界が残像現象で反対色になって、オレンジのような色に見えます。
ハンター:  はい。体験しました。すごかったですね。あれも、リアリティとは何なのか考えさせられる作品でした。
 暗闇の話は、同感です。暗闇はとても重要です。安藤忠雄さんの建築もユニークです。光と影、暗闇を巧みに組み合わせて、空間に新たな意味を持たせています。
これからの世界は、今とは全く違ったものになる。
和田:  いま、デジタルな世界になっていますが、瞑想とデジタルな世界というと交わらないような気がしますが、こうした世の中で、瞑想はどのように人々のツールとなっていくでしょうか?
ハンター:  そうですね。もっと簡単になっていくかもしれませんね。私の友人は、インターネットのセカンドライフで、瞑想を教えたいと言っています・・・笑
とても興味深いですね・・・
和田:  セカンドライフの内容は、ニュースか何かで見たことがありますが、例えばクラブがあって、自分のアバターであるキャラクターが踊っているわけですね。瞑想なら、自分のアバターが座って瞑想するんですかね・・・笑
ハンター:  笑 考えると面白いですね。

和田:  これからの時代は、どんな世界になっていくと思いますか?
ハンター:  笑・・・誰が知っているでしょうね・・・笑 本当に・・・
そうですねえ・・・血にまみれて、危険で、そして、人々はバカなことをやって・・・笑
和田:  ハンター教授は、楽観主義者だと思っていましたが・・・笑
ハンター:  しかし、また、いいこともたくさん起こるでしょう・・・笑
 私は、世界は全く変わってしまうと思っています。今の世界が望ましい世界でないことは、みんな解っているでしょう。でも、どうなるか、誰が知っているでしょうか?
和田:  いろんなネガティブな未来をイメージしがちです。でも、ある時にシフトするようなことがあるだろうなと僕は思っているんですが・・・。
ハンター:  私もそう感じます。2、3年するともっと多くの人々が開かれていくんではないでしょうか・・・
和田:  このスピボイのインタビューで、必ず皆さんにこれからの世界はどうなっていくでしょうと聞くんですが、大体皆さん同じようなメッセージを言われます。ネガティブな意見を言うと、多くの人は、やっぱりそうなるだろうねと・・・
 地球温暖化でも、戦争でも、あーOK!OK!問題ないという意見はないわけで・・・
ハンター:  私は、人間は必ず生き残ると自身を持っています。日本の将来もちょっと面白そうですね。
和田:  アメリカはどうでしょうか?
ハンター:  笑・・・どうでしょうね。経済の問題がいっぱいありますからね。教育の問題も、環境の問題もたくさんあります。でも、人間には才能があります。日本人は特別な才能があると思っています。日本人は、歴史の中で何度も再創造してきました。そして、今後もそうしていくでしょう。たぶん、半分ロボットになっているかも知れませんよ・・・笑
和田:  笑
ハンター:  でも、日本は驚くべき柔軟な文化を持っています。時間が来れば、みんな変わるでしょう。一部の人は変わりたくないかもしれませんが・・・笑 変わり続けなくてはいけないでしょうね。
和田:  ハンター教授の今後のビジョンについて聞かせてください。
ハンター:  笑・・・そうですね、私のビジョンは静かな生活を送ること・・・それだけです。教えることは続けていきたいです。それと、来年から私は、建築の勉強を始めようと思っています。趣味のようなものですが・・・笑
和田:  最後に、読者の皆さんに、これだけは伝えておきたいと言うことはありますか。
ハンター:  そうですね。何よりもアテンション(注意すること、注目)を払うことが大事です。自分の内面はどうなっているのか、自分の周囲はどうか、何をしているのか。それだけで、すべては変えていくことができます。とてもシンプルです・・・。
和田:  今日は、長時間ありがとうございました。
ハンター:  こちらこそ、楽しかったです。ありがとうございました。
ジェレミー・ハンター /
プロフィール
・ クレアモント大学院
  P.Fドラッカー経営大学院
・ 南カリフォルニア大学
  マーシャルビジネススクール
  教授
・ 「Self Management」
  理論研究の第一人者

“人生の豊かさ(Wellbeing)”と“仕事のパフォーマンス最大化”について研究。ミハイ・チクセンミハイ(世界的に著名な認知心理学者で「フロー」理論の提唱者)とともに、クレアモント大学院内にQuality Of Life Research Centerを設立。コンサルティング実績は米トヨタ自動車営業、ロサンゼルス警察など、企業、公的機関含め多数。
ハーバード大学院にて修士、シカゴ大学にて博士課程修了。

Jeremy Hunter 教授のセッションは、最先端のポジティブサイコロジー、脳科学、コーチングといった理論をベースとしており、「実践」を重視した充実のコンテンツが高く評価されています。
【取材後記】
 MBAで瞑想を教える。経営と瞑想が結びついていてもおかしくはないけれど、それも、あの経営の神様とも言われるピーター・ドラッガーのMBAスクールで、瞑想が教えられているというのは、ある意味で、経営を学ぶ頂点では、瞑想が教えられていると言っても言い過ぎではないと思う。
 瞑想は、それだけ魅力的なひとつのメソッドになっている。日本のみならず、経営者が禅寺で座禅を組んだり、修験道や密教の荒行に挑んだりというのは、よくある話だけれど、瞑想は、ごくごく日常の中で、習慣のように溶け込んでいくものだ。
 ジェレミー・ハンター教授は、日系人ハーフで、その生い立ちの中で、自己に向き合い、瞑想を得た。若くして、死を宣告されるという体験から、内面への旅は、より深いものになった。そんな彼を支えていたのも瞑想だ。爽やかな笑顔が印象的なその親しみやすいキャラクターは、静かに内に向かう時間を大切にして、いつもセンターにいること、アテンションを保つことを常とする彼の穏やかさの顕れなのだろう。
 経営者が瞑想をするというのは、とてもスピリチュアルな経営者だと思うかも知れないけれど、実際は、スピリチュアルに関心があるとかないとか関係なくて、ただ、座って、静かに目を閉じれば、誰しもが、瞑想の効果を得られるものだ。
 瞑想と瞑想による神秘体験は異なる。神秘体験を求めることが目的ならば、他にもさまざまな方法があるけれど、瞑想はいつも身近にあって、沈黙の中に自分と向き合い、自分が本来の自分のセンターに帰るとても有効で、効果的な方法だと思う。瞑想は、僕たちが、人生を豊にしていく上で、もっとも大事な“自分であること”のための素晴らしい方法であり、神様が与えてくれたギフトだと信じている。
 瞑想をやるかやらないかで、人生が大きく変わる。それが本当かどうかは、やった人だけがわかる。僕は、スタイルはともかく、どんなことをするよりも、瞑想がとても役に立つことを強調したい。ただ、静かに座って、目を閉じてみよう。そして、静かに呼吸してみよう。ただ、何も考えず。一点に集中してみる。きっと、あなたの人生がより良いものへと変わっていくだろう。
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